手代木正太郎の新作! うれしい! 面白かった!
ジャンルは特殊設定ミステリということになるんだろうか。神話や伝承、あとは20世紀初頭のオカルトとかがモリモリで、その取り扱いの巧みさが期待通りで嬉しかった。
以下、ネタバレありの感想。
この表紙は雰囲気があっていいけど、魅力的なキャラクターたちの挿絵がないのはちょっと残念だった。絵で見たかったなー。コミカライズ出ないかな。(星海社あるある)
ただ星海社だけあって造本はいい。キャラのイラストがない代わりに、ホラーやミステリ読みも手にとってくれそうだし、長く売っていけそうな印象もある。こういうのも好きよ。
ヒロインはコティングリー妖精事件ベースか。世間ずれしたところと妖精への気持ちを持ち続けている部分とのバランスがよく、素敵な人だと感じた。
最初にヒロインが手品でインチキ妖精召喚ショーをやっていたので、TRICKみたいな感じの作品になるのかと思ったら全然違った。
館に集った高名な術師によって、順番に降霊会が行われて事件の情報収集をするのが、ちょうど館に集った探偵が順繰りに推理を披露するやつと構造が重なっててユニークに感じられた。
それぞれ違う能力を持った術師が順繰りにその来歴と技を披露することで、キャラ見せ、違う次元の手がかりの提示など様々な役割をもたせてる。ただ情報を出してるだけになってないのでどこ食べてもおいしい味がする。それでまたこの作者らしくキャラの見せ方がうまいうまい。特に某婦人の来歴と能力はこの事件の根幹と深く結びついててすごい!!!!!ってなった。
ボンドについて、能力の設定とキャラクター造形が他にない感じだったので良いな〜と思った。
14章で明かされる彼とジョンの話がそれ単体でもかなり面白かった。彼らが信頼関係を持って冒険していたころの短編を読んでみたい。
終盤で繰り返される、あると思う現実を選ぶことができるというのは、妖精や館の存在だけでなく、他の能力についてもそうなのかもなと思わされた。
いつかダレンとグリフィスと妖精とが出会う現実が引き寄せられたらいいな。いいラストシーンだった。
余談だけどこういう洋館訪れる系の話、近年の話だと高確率で何らかのおいしいものを食べている場面があるのだけど、本作はそういう感じではなかった。チョコレートを飲んだりちょっと摘んだりするくらい?
多くの作品で入ってる理由は
・滞在場所の豪華さ演出
・くつろぎの演出(=緊張感の緩急をつけるため)
・感覚的な描写を入れることでリアリティを感じさせるため
などなどなんだろうけど、この作品ではそれに頼らずとも迫力のある作品を書けてるということなのかもしれない。