犬山の読書録

犬山です。心動かされたものについて記録します。

【感想】「若者の読書離れ」というウソ: 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか

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小中高生の読書や生活に関する様々な統計を展望的に検討し解釈している本。
「最近の若者は本を読まない」「中高生はラノベを読んでる」「今どきの若者は〇〇な作品ばかり読んでいる」等、若者の読書に関わる思い込みについて、統計をベースにその実態を教えてくれます。

 

若者の読書の現場に関わる知人は「ちょっとズレてるところもある…」とは言っていたけど、まず一般的な現状を把握しようと思ったら読んで損はないと思う。

 

ざっくり概要が知りたければP244の議論のまとめ部分はエッセンスが詰まってていいと思う。

 

若い読者が多く読んでいる本について、どのような要素がその心を捉えているのか推測しつつ、実際の作品について評しているパートが興味深かった。ライトノベル作品等含め、良い悪いの価値判断を入れずにどういう要素を拾ってウケているのかを推測しており、若者の読書談義でセットで語られがちな良書悪書みたいなニュアンスがなくて誠実だなと思った。

 

中でも『人間失格』に関するコメントがよかった。文豪ストレイドッグスから入る人がけっこういる、という導入はありつつ「他にも人気キャラはたくさんいる中で何故『人間失格』が人気作としてランク入りするのか」「若い方に受ける物語の型(本書の中の分析)のこういう要素にあてはまるからやね」みたいな展開のさせ方をしていた。確かに中原中也とか江戸川乱歩がそこまで目立ってお若い方に人気あるわけではないですものね。
https://nlab.itmedia.co.jp/research/articles/107031/

 

あと、お若い方は人間から何かを学ぼうとなった時に実用書とかビジネス書っぽいのよりもフィクションの人物から何かを学ぼうという傾向も分かる~~~てなった。これは私見だけど友崎くんをそういう目で読んでいる人はけっこういるのではないかな。

 

 

☆大学生が本を読まない理由
かつてより大学進学者が増えているが、その入学のルートとしてAO入試等も増えている。かつては大学進学しなかった低学力層も入学しているので読書量は低いのではないかという話(P40くらい)

 

☆ノベライズについて
jBooksの革新的なところ P122とか
・本編と入念にすり合わせたDグレノベライズ→初版5万部発売前重版、30万部の増刷
・雑誌コードで流通するジャンプコミックスと書籍コードで流通するノベライズを並べて売れるよう発売日や陳列場所を調整する

あと、漫画原作の映画のノベライズという形のパッケージングも買いやすさ、読みやすさの上では革新的だったとか。
ただノベライズだから読まれているという形ではなく、マーケティングをきちっとやった作品がきちっと刺さっているという地に足のついた話をしてて良かった。

小説版『星のカービィ』に言及してる。この他愛ない作品が選ばれる理由にスポットを当てて考察することを通して、若い方のニーズを探っているのが興味深かった。

 

この辺のノベライズよもやま話みたいなのもっと読みたいんだけどどっかにまとまってないかな。


ラノベ(p155とか)
このラノだと10代20代にラブコメが人気がある
⇔学校読書調査ではラブコメは一貫して少数派
学校読書調査は匿名調査だから周囲に恥ずかしいからラブコメ好きを隠してるというのは可能性として低いという推測と、性に対する意識調査で性への消極性や否定的感情を回答する割合の増加から、性的な要素が入ったラノベはそこまでウケないという論を展開している。あやトラは移籍しアオのハコは続いている話などからも。

 

 


☆いいねと思った資料
子どもの読書行動に家庭環境が及ぼす影響に関する行動遺伝学的検討
安藤 寿康

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdp/7/2/7_KJ00003367983/_article/-char/ja/
「図書館・本屋に連れて行ったり読み聞かせをするなど, 親が直接に子どもに与える環境を子が認知する仕方には, 遺伝的影響がみられた。また子どもの読書量についても遺伝的影響が示唆された。だが子どもの読書に対する好意度には, 遺伝的影響ではなく, 親の認知する蔵書量が影響を及ぼしていた。」