最新六巻まで読みました。良かった……。
6巻の感想(ネタバレあり)
前半のヒロイン頂上決戦も悪くなかったんだけど、この巻の一番の山はやはりダブルブッキングからの決断だと思う。前半で主人公は人間関係を音楽の優劣に持ち込まないという話、中盤では恵まれた現状に対するモヤモヤに徐々に向き合っていき、最後のエピソードでは一人でステージに立つ決断をする。
6巻まで積み上げてきたものに向かい合いつつ、彼自身がどういう音楽活動をやっていきたいかというところに向き合っていて良いと思った。
学生バンドだと卒業というテーマにはどうしても向かい合わざるを得ないんだろうけど、その方向性を示唆するものだったと思う。楽園と名がつくバンドにいるのなら、きっとそこを出るのだろうなという寂しさの予期がありつつ、でもその先に待つものにも期待が持てる。6巻はその方角から差す光を見せてくれてると思います。
最後に余談ですが響子がサブキャラで定期的に出てくるのと、他キャラのあれから情報が摂取できるので、さよなら~読者は読むと追加で栄養とれます。
シリーズ全体に触れておくと、まず間違いなくこのシリーズは高校生バンドものの金字塔になると思う。あとがきで著者自身が触れている通り『さよならピアノソナタ』(2007年)のリファインという感じ。でも縮小再生産という感じは全然ない。それはDTMや現代的なガジェットが取り込まれているからだけでなく、ラブコメの手際が(元々上手かったのに)さらに洗練されているからだと思います。
ラブコメが上手いと思う要素
・キャラ同士のやりとりが噛み合っている
・主人公の人間性にブレがない、かつヒロインごとに異なる関わり方ができている
→双方のキャラの厚みを見せられている
・ハーレムでギスギスしてないのが今風だと思う
→でも最新の6巻ではヒロイン頂上決戦をバチバチに行ってる。決着の付け方が見事であり、この作品のこのキャラらしさが出てて良い。
話は変わって、音楽モノだと歌詞をそのまま入れる作品がままあるけど、この作品は全く出てこない。歌詞を入れるのは、素人が考えるに
・歌っていることを明示する
・ストーリーのメッセージ性を強化したい
・作詞もできるという自己顕示
とか色々な意味合いがあると思う。ただ、個人的には歌詞が入っていて嬉しいと思ったことは少ない。みんなはどうかな?
この作品の演奏、歌唱シーンは身体感覚やビジョンを描写したものとなっています。それだけ書くと何ソレって感じですが、ホントに上手にバチバチ決まっててステージの高揚や主人公の思い入れがよく伝わってきます。読んでるというか「浸ってる」という形容の方が近いかもしれません。
あと女装要素で食わず嫌いしてる人に朗報かもなんですが、女装要素は巻を追うごとに薄まっていくので怖がらなくても大丈夫です。女装する隙がなくなっていくという印象。境ホラは巻を追っても隙あらば女装をねじ込んでくるので異常だと思う。
女装男子主人公であるのは、女装男子愛好家への投げ込みというよりは中性的な美しさを担保することに軸足がある印象です。フェチ的な描写があまりないので。
また、女装キャラであることは、女性キャラクター側が好意を持っている場合には、更衣や入浴などの生活場面に立ち入ることの許可からのイメージ惹起(実行するか否かは問わず)という展開に接続がいいのだなと思いました。エンタメ作品でセクシャリティ以外の理由で女装させるならやっておいた方がいいことだと思う。
また、関係性の揺らぎ作り(女装からの気安さ→男性としての認識、踏み込み)にも役立てられるんだなーと思いました。ロジカルに女装を使っている。
あとがきでラブコメにおける名前の呼び方の実践について触れてらっしゃる感があるんですが、かなりロジカルにラブコメをやっている方だなと思いました。